郊外地域におけるPrivate LoRa通信によるIoT機器活用(その1)


なぜ、LoRa(ローラ)なのか

弊社所在地である鳥取県八頭郡八頭町は、自然が豊かで農業が盛んであり、周りを山々に囲まれているため、シカやイノシシの被害も発生している地域です。

IoT(インダストリー4.0)の導入は、製造業では進みつつありますが、第一次産業である農業等への導入は現状進んでいないと思われます。

山間部ではIoT機器稼働に必要な、通信インフラ、電源の確保が難しい点もIoT導入が進まない一因として挙げられます。
八頭郡地域の山間部では、携帯の電波が届きづらい地域もあり、そのような場所では、5Gによる通信サービスが開始されたとしても、サービスエリア外のままだと予想されます。さらに、携帯の電波を使う通信の場合には、機器の消費電力が増加する傾向にあります。
屋外での電源確保については、まず思いつくのはソーラー発電によるバッテリー蓄電です。畑や田んぼの場合はソーラー発電も可能ですが、林野の場合には日陰になる箇所も多く、十分な発電量を確保できないこともあります。

以上の事由により、免許不要で基地局を設置することで、数kmの範囲を通信エリアとすることができ、さらに機器の消費電力を抑制することができる「LoRa」通信が郊外地域での通信インフラとして活用できる可能性があると考えています。
消費電力が少ないことにより、IoT機器を乾電池によって数ヶ月間、稼働することも可能であると考えます。

LoRa利用用途

  • 水田の水位管理
  • ハウスの温度・湿度・照度・二酸化炭素濃度管理
  • シカ・イノシシ罠の捕獲通知
  • 山間部土砂災害早期検知

LoRaの特徴

  • 特定小電力無線のため免許不要
  • 概ね10km程度のカバーエリア(市街地は1~2km程度)
  • 消費電力が少ない
  • スペクトラム拡散変調方式によりノイズに強い
  • 低速度・小データ量(通常は画像などの大きなデータは送信できない)

LoRaWANとPrivate LoRa

LoRaには「LoRaWAN」と「Private LoRa」があります。「LoRaWAN」は多数の端末間で通信をやりとりするものであるため、利用開始までのシステム構築等が複雑になります。携帯電話事業者のようにLoRaWANサービスを国内で提供している事業者もあります。
それらのサービスを利用するためには、ゲートウェイと呼ばれる機器を月額契約し、通信量に応じた通信費を支払うことになります。数百台のLoRaWAN対応機材を導入するような場合には適していると思われますが、数台の機器で通信する際には適しません。

一方、「Private LoRa」はもっと小規模なLoRa機器間での通信に適しています。文字データをやりとりできるトランシーバーのようなイメージです。基地局とエリア内(概ね半径10km)のLoRa機器で通信を行えますし、1回に通信できるデータ量等もLoRaWANよりも柔軟に設定できます。ただし、データ量が増加すると通信できるエリアが狭まりますので、用途に合わせて調整( 帯域幅・拡散率) が必要です。

Private LoRa機器の試作

Private LoRa機器の通信試験として、移動端末が取得したGPS位置情報を基地局に送信し、その情報をクラウドにアップロードし地図上にプロットすることで、Private Loraの通信可能エリアを調査するための機器を制作します。

使用部材

移動端末

■LoRa通信モジュール EASEL社LoRa通信モジュール「ES920LR
ピンヘッダ付きモジュールが便利です。(LoRaモジュール ES920LR 開発・評価キット は不要)
ES920LR対応 アンテナ・ケーブルセット

■マイコン ESP8266 「ESPr Developer

みちびき対応 GPSモジュール

基地局

■LoRa通信モジュールは移動端末と同様

Raspberry Pi Zero WH

クラウドサービス

Ambient

左:移動端末 右:基地局

移動端末のスイッチを押下するとGPSモジュールが計測した位置情報を基地局へLoRa通信で送信し、Raspberry Piがクラウドへ位置情報をアップロードします。(Raspberry Pi → クラウドはWifi利用)

基地局設置状況 (隼ラボ 3階テラスに設置)

フィールドテスト

【実施日 】 令和元年5月27日 午前
【天候 】 晴れ 28℃

【方法・条件】
・八頭町隼ラボ 3階テラスに設置した基地局に対し、移動端末から位置情報を送信する。
・データ送信時は屋外で静止状態とする。
・データ送信エラー時の自動リトライ回数 3回。
・LoRa通信は、帯域幅62.5kHz、拡散率12 とする。

テスト結果

最大通信可能距離:6.72km

上記の最大通信可能距離は、基地局を設置した隼ラボから見通せる範囲での計測結果であり、さらに遠くまで見通せる環境であれば通信距離も伸びる可能性があります。
下図において緑色部分は山・丘であり、山の陰になると短距離であっても通信できないことが確認できました。

Google Earth用データダウンロード(LoRa.kmz)


地図の西側に位置する河原城付近では、山のふもと付近では通信できましたが、少し奥へ進み山の陰になると通信できませんでした。

河原城の少し奥では山の陰になるため通信不可

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