
目次
はじめに
IoT(Internet of Things)の普及に伴い、低消費電力で長距離通信が可能なLPWA(Low Power Wide Area)技術が注目を集めています。その中でも、LoRa(Long Range)技術を用いたPrivate LoRaとLoRaWANは、多くの企業や組織で採用されています。本記事では、これら2つの技術のメリットとデメリットを詳しく解説し、それぞれの特徴や適用場面について解説します。
Private LoRaとLoRaWANの基本的な違い
Private LoRaとLoRaWANは、物理層にLoRa変調を使用した無線通信規格ですが、上位のMAC層が異なる特徴を持ちます。LoRaWANは、LoRaAllianceが策定した標準規格で、異なるメーカーの機器同士での通信が可能です。通信処理にはLoRa専用のネットワークサーバーを使用します。一方、Private LoRaは、MAC層にメーカー毎の独自の通信プロトコルを使用しており、様々なアプリケーションや用途に対してカスタマイズが可能です。
Private LoRaについて
Private LoRaは、LoRa変調技術を使用しながら、独自のMAC(Media Access Control)層プロトコルを実装したプライベートネットワークです。ユーザーが自由にネットワークを構築し、運用できるという特徴があります。
日本国内のメーカーは、LoRaWAN対応製品よりもPrivate LoRa対応製品を開発しているメーカーが多いです。
Private LoRaのメリット
- 通信コストの削減
Private LoRaでは、デバイスからゲートウェイまでの無線通信に関して通信料金が発生しません。これにより、長期的な運用コストを大幅に削減できます。 - 柔軟な運用
通信チャンネルや拡散率、帯域幅などの設定を自由に調整できるため、通信環境や要件に応じて柔軟な運用が可能です。データ通信量が少ない場合にはバッテリー持ちを重視した設定などを考慮した運用が可能です。 - カスタマイズ性の高さ
Private LoRaの最大の利点は、ユーザーのニーズに合わせて通信プロトコルをカスタマイズできることです。これにより、特定のアプリケーションや用途に最適化されたネットワークを構築できます。ただし、プロトコルのカスタマイズ等は専門性の高い領域であり、LoRa通信モジュール開発メーカーでの対応が必要な場合が多いです。 - セキュリティの向上
プライベートネットワークであるため、外部からのアクセスを制限しやすく、セキュリティを強化しやすいという利点があります。
Private LoRaのデメリット
- 相互運用性の欠如
独自プロトコルを使用するため、異なるメーカーの機器との相互運用性が低くなります。 - ゲートウェイの自己管理
ユーザーが自らゲートウェイを購入・設置・管理する必要があり、これらの作業や費用が発生します。 - 技術サポートの制限
標準化されていないため、技術サポートやトラブルシューティングが難しくなる可能性があります。利用する通信モジュールメーカーのサポートが必要になります。
弊社でのPrivate LoRa利用例
LoRaWANについて
LoRaWANは、LoRa Allianceによって策定された標準規格のネットワークプロトコルです。この技術の特徴として、デバイスとゲートウェイ間でN:N(多対多)のネットワーク構築が可能であり、これにより広域なネットワークを展開することができます。これは、Private LoRaがデバイスとゲートウェイ間でN:1(多対一)の接続に限定されているのとは異なります。
LoRaWANのメリット
- 相互運用性
LoRaWANは国際的に標準化された技術であり、多くのベンダーやサービスプロバイダーがサポートしています。ただし、日本国内では対応ベンダーは限られます。これにより、異なるメーカーの機器間での相互運用性が確保されます。 - 広範囲なカバレッジ
LoRaWANは長距離通信が可能で、1つの基地局で広い範囲をカバーできます。都市部では3〜5km、見通しの良い環境では10km以上の通信が可能です。 - 低消費電力
LoRaWANデバイスは非常に省電力で動作し、バッテリー駆動で数年間稼働することも可能です。 - スケーラビリティ
1つの基地局で多数のデバイスをサポートできるため、大規模なIoTネットワークの構築に適しています。 - セキュリティ機能
LoRaWANには暗号化やデバイス認証などのセキュリティ機能が組み込まれており、安全な通信を実現できます。 - エコシステムの充実
LoRaWANは多くの企業や組織で採用されており、豊富なデバイスやソリューションが提供されています。国内メーカーはLoRaWANデバイスを開発しているメーカーは少ないですが、海外メーカー製の技術基準適合証明(技適)を取得済みのデバイスであれば利用可能です。
LoRaWANのデメリット
- 通信速度の制限
LoRaWANの通信速度は比較的低く、最大でも50kbpsです。そのため、大容量データの送信や低遅延が要求されるアプリケーションには適していません。 - 通信コストの発生
公衆LoRaWANネットワークを利用する場合、通信事業者との契約が必要であり、デバイスごとに通信料金が発生します。
※ただし、独自にネットワークを構築した場合やTTN(The Things Network)を利用する場合には通信料金は発生しません。 - ネットワークサーバーの必要性
LoRaWANでは専用のネットワークサーバーが必要であり、これらの構築・運用にコストがかかります。
ただし、小規模のシステムで良い場合には、ゲートウェイ(基地局)内にサーバー機能を内蔵しており、クラウド上にサーバーを構築することなく導入可能な製品もあります。 - カスタマイズ性の制限
標準規格であるため、特定のアプリケーションや用途に対するプロトコルの最適化が難しく、柔軟性に欠ける面があります。 - 電波干渉のリスク
ライセンス不要の周波数帯を使用するため、他の無線機器との干渉が発生する可能性があります。
弊社でのLoRaWAN利用例
Private LoRaとLoRaWANの比較
以下の表で、Private LoRaとLoRaWANの主な特徴を比較します。
特徴 | Private LoRa | LoRaWAN |
---|---|---|
カスタマイズ性 | 高い | 低い |
通信コスト | 低い | 高い(公衆網利用時) |
相互運用性 | 低い | 高い |
セキュリティ | カスタマイズ可能 | 標準機能あり |
開発コスト | 高い(カスタマイズする場合) | 低い |
スケーラビリティ | 中程度 | 高い |
標準化 | なし | あり |
ゲートウェイ管理 | 自己管理 | サービスプロバイダー管理可能 ※自己管理可能なサービス・機器もあり |
適用場面の考察
Private LoRaに適した場面
- セキュリティ要件が厳しい環境
例:工場内の機密性の高いデータ通信、軍事施設でのセンサーネットワーク - 特殊な通信要件がある場合
例:特定の産業用途に最適化された通信プロトコルが必要な場合 - 通信コストを最小限に抑えたい場合
例:多数のセンサーを長期間運用する農業IoTシステム - 既存のシステムとの統合が必要な場合
例:独自のバックエンドシステムと密接に連携するIoTソリューション
LoRaWANに適した場面
- 多数のデバイスを管理する必要がある場合
例:大規模なスマートメータリングシステム、物流追跡システム - 広範囲のカバレッジが必要な場合
例:スマートシティプロジェクト、広大な農地でのセンサーネットワーク - 標準化された技術を求める場合
例:複数のベンダーの機器を組み合わせて使用する必要がある場合
導入時の考慮点
Private LoRaやLoRaWANを導入する際は、以下の点を考慮することが重要です。
- デバイス数とスケーラビリティ
現在のデバイス数だけでなく、将来的な拡張性も考慮してネットワークを設計します。 - 通信範囲と環境
建物の構造や地形などの環境要因を考慮し、必要な通信範囲を確保できるかを検討します。 - データ量と通信頻度
送信するデータ量や通信頻度に応じて、適切な通信設定を選択します。 - セキュリティ要件
データの機密性や完全性の要件を満たすセキュリティ対策を実装します。 - 運用コスト
初期投資だけでなく、長期的な運用コストも含めて総合的に判断します。 - 技術サポートとエコシステム
導入後のサポート体制や利用可能なデバイス・ソリューションの充実度を確認します。 - 規制対応
各国・地域の電波法や周波数規制に準拠していることを確認します。
まとめ
Private LoRaとLoRaWANは、それぞれ異なる特徴と長所を持つIoT向け通信技術です。Private LoRaは高いカスタマイズ性と低い通信コストが魅力です。一方、LoRaWANは標準化された技術で相互運用性に優れていますが、公衆網利用時の通信コストや柔軟性に課題があります。公衆網ではなく独自にサービスを構築することも可能です。導入を検討する際は、アプリケーションの要件や運用環境、コスト、セキュリティなどを総合的に評価し、最適な選択をすることが重要です。また、技術の進化や市場動向にも注目し、将来的な拡張性や互換性も考慮に入れる必要があります。
Private LoRaとLoRaWANに関するFAQ
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Private LoRaとLoRaWANの通信距離に違いはありますか?
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物理層で使用しているLoRa変調技術は同じであるため、原則として通信距離に大きな違いはありません。ただし、Private LoRaでは通信パラメータをカスタマイズできるため、特定の環境下では通信距離を最適化できる可能性があります。
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Private LoRaを使用する場合、近隣の他のLoRa通信の影響を受けませんか?
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Private LoRaに限らず、920MHz帯を使用する他の無線機器からの干渉を受ける可能性があります。
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LoRa通信で音声通話は可能ですか?
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LoRaは通信速度が遅く、連続通信ができないため、リアルタイムの音声通話には適していません。IoTデバイスからの少量のデータ送信に適した技術です。
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Private LoRaとLoRaWANのどちらが省電力ですか?
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両者とも低消費電力で動作しますが、LoRaWANは標準規格として省電力動作が最適化されています。一方、Private LoRaではカスタマイズにより、特定の用途でより省電力な動作を実現できる可能性があります。
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通信距離はどのくらいですか?
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見通しがよければ半径10km程度でも通信が可能です。市街地でゲートウェイをビルの屋上に設置した場合、半径2km~3km程度の通信が可能です。ただし、通信環境や設置状況、LoRa設定により大きく変動します。
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免許は必要ですか?
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LoRaモジュール及び製品は特定小電力無線となり、日本国内では免許なしで使用できます。
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バッテリー寿命はどのくらいですか?
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使用状況によって異なりますが、ボタン電池1つで数年間の運用が可能なケースもあります。